なかよしBLOG

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ジャニーズに履歴書を送った同級生アマノくん #アイドル歌会 公式歌集出版に寄せて

言葉にしないだけで誰の心の中にも「アイドル」がいる。

InstagramTikTokで誰かの自撮り写真やダンス動画を見るたびにそんなことを感じる。

少なからず自分の中にも「アイドル」がいた。

幼稚園の頃は同じ組の男子たちと「パラダイス銀河」を歌いながらローラースケートを履いているかの如く、園庭をグルグルと走り回っていたような記憶がある。

ただ、一度として「アイドルになりたい」と思ったことはなかった。

小学校高学年のとき、クラスで「同級生のアマノくんがジャニーズに履歴書を送った」という噂が流れたときも、僕は周りの友人たちと「アイツがジャニーズになれるわけないじゃんねぇ」と陰口をたたいていたタイプだ。

自分の中にいたはずの「アイドル」はいつの間にか姿を消していた。

アイドルってこんなにいたんだ

アイドルときちんと向き合うようになったのは30代の後半になってからだ。

日本屈指のドルヲタアナウンサーことニッポン放送吉田尚記さんに声をかけてもらい、一緒に働くようになった。平日はアイドルラジオのパーソナリティー、週末はアイドルイベントのMCを務める生活を横で見ていて感じたのは、「日本にはこんなにたくさんのアイドルがいたのか!」ということ。

圧巻だったのは、吉田さんがMCとして参加したアイドルの祭典「Tokyo Idol Festival(TIF)」だ。

女性アイドル=ハロプロ、AKB、坂道、ももクロぐらいのイメージしかなかった自分にとって、朝から晩までお台場エリアの野外ステージでパワフルなパフォーマンスを見せるアイドルの皆さんたちの存在は衝撃的だった。

 

可愛らしい女性たちが、踊って歌って、しかもめちゃくちゃかっこいい。ファンの方たちが口にする「尊い」の意味を、少しだけ理解できたような気がした1日だった。

あるソロアイドルとの出会い

嬉しい連鎖は続き、今度はソロアイドルとして活躍しているゆっふぃーこと寺嶋由芙さんに声をかけてもらい、仕事で一緒になる機会ができた。打ち合わせに参加したり、ライブを拝見したりして、アイドルという仕事に対する理解度は一気に深まっていった。

忘れられないのは、初めて見学させてもらったLOFT HEAVENでのライブだ。決して大きなライブハウスではないけれど、ステージに立つゆっふぃーさんはキラキラと輝いていて、今までにないほどまぶしかった。

同時に、“ヲタク”と呼ばれるファンの存在の大きさを目の当たりにした。

ときはコロナ禍真っ只中。手拍子や拍手などでライブを盛り上げるヲタクたち。終盤にかかったキラーチューン「好きがこぼれる」では、着席したままながらも振りコピするヲタクたちの姿と、力強く歌声を響かせながらも彼らに優しいまなざしを送るゆっふぃーさんの姿があった。

 

「あのステージからはどんな景色が見えるのだろう?」

帰り道に、気がついたらそんなことを考えていた。

真冬の有楽町、ニッポン放送の一室で

2021年2月4日の夜20時、ニッポン放送の会議室に二人の男性がやってきた。歌人笹公人さんと短歌研究社・編集長の國兼秀二さんだ。

笹さん、そしてあの俵万智さんが監修で歌舞伎町のホストの方たちが短歌を詠む「ホスト万葉集」が好評だったことを受け、「今度はアイドルが短歌を詠む企画はどうか?」とドルヲタアナウンサーの吉田さんに相談を持ちかけてくれた。

「これ、絶対におもしろいと思います…!」

吉田さんは興奮気味に即答した。「そうですか!」「よかった!」と嬉しそうな表情を浮かべる笹さんと國兼さん。そして、その場で人選を始めようとする吉田さん。北風吹く有楽町の片隅で、確実に何かが始まる予感がした。

七月六日はサラダ記念日

真冬の有楽町から5ヶ月が経った2021年7月6日、あのサラダ記念日に第一回のアイドル歌会が無事開催された。

 

以来、TIFでの出張版も含めると7回ものアイドル歌会が開催され、参加してくれたアイドルの総数は20名近くに及ぶ。

当初は「とはいえ、アイドルの方たちが詠む短歌だから」とあまり期待はしないようにしていたが、全くもって浅はかだった。

アイドルの方たちが詠む歌には、ステージに立っているからこそ見える景色が、彼女たちならではの言葉で描写されていた。紛れもなく自分が知りたいと思っていた光景だった。

歌会の中で読まれた短歌で特に心に響いたものをご紹介したい。

お題:ステージ

目の前で気づいてしまう 他の子を観ているあなたがいい顔してる(鹿目凛さん/でんぱ組.inc

お題:年末

ふるさとで「息子」に戻ったヲタクから届くリプライみかんの香り(寺嶋由芙さん)

お題:衣装

年齢とスカート丈が反比例わたしの青春測り知れない(真山りかさん/私立恵比寿中学

ヲタクへの愛、そしてアイドルとして生きる覚悟を感じる言葉の数々。回を重ねるごとに彼女たちの言葉にすっかり心を奪われていた。

短歌と出会ったアイドルは、三十一文字でどんな思いを紡ぐのか

アイドル歌会のオープニングは、毎回司会の吉田さんのこの口上から始まる。

短歌は千三百年前からつづく、愛の交換ツール。

愛し合う喜びを、会えない哀しみを、道ならぬ恋の苦しみを、5・7・5・7・7の三十一文字に乗せる。一晩かかってしゃべっていたことより、三十一文字のほうが気持ちが伝わることがある。

短歌を披露し合うのは、歌会。歌を持ち寄り、自分たちの“推し”の歌を観賞し合う。

短歌に一番はない。上手い、下手はない。あるのは、どの歌が好きか、どの言葉が胸に響くか。

「あなたは、どの短歌を“推し”ますか」

愛を届けるといえばアイドル、そして推しアイドルを応援するファンたち。アイドルと短歌との出会いーー新しい可能性が広がる。

短歌と出会ったアイドルは、三十一文字でどんな思いを紡ぐのか。

アイドルを好きになってほしいだとか、歌会に来てほしいだなんてことは思わない。

ただ、アイドルという仕事に人生をかけて向き合う人たちの言葉に、人の心を魅了する不思議な力があることだけは感じ取ってもらえたら嬉しい。

ちなみに、冒頭のアマノくんは先日中学の同窓会のLINEグループで「ヘビのタトゥーを入れた!」と写真と共に嬉しそうに報告していた。

あの日以来、そのLINEグループは開いていない。